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2016/09/26
蒼天の竜のバックナンバー
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彼は逃げなかった。
体は強張り、見開いた目はずっと驚いたままだ。
しかし、その瞳に恐怖の色は見えなかった。
だから、多分大丈夫だ。
「いきなりすいません。驚かないでください。俺を覚えていますか?」
驚くなって方が無理だよな。
急に大声で謝られたんだから。
咄嗟に「ごめんなさい」しか出て来なかったんだから仕方ない。
彼は小さく頷いた。
オイルが切れたみたいに、ぎくしゃくした首の動きだったけれど。
「これ、あなたのですよね?返そうと思って」
鞄から、水色の手紙を取り出した。
皺にならないよう、ファイルに挟んでいたけれど、端が少し折れ曲がっている。
「ごめんなさい。すぐに返そうと思ってたのに、今日になってしまって。ちょっと折り目が付いちゃいました」
拾ったそのままの状態で返したい。
そう思っていたのに、失敗だった。
手紙を見た途端、彼は手の平で口を覆い、小さく「あっ」と言ったようだった。
初めて声を発してくれたのに、木々の葉を渡る風の音に消され、よく聞こえなかった。
彼の瞳が揺れて、今にも泣きそうになる。
やっぱり大切なものだったのだ。
絶対返さなくては。
逃げられても困るが、泣かれても困る。
時が止まったかのような公園に、ただ風だけが動いていた。
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