身近に小さな文明論  2004/05/30

身近に小さな文明論・・2004.05.30

飛行機雲に馳せる想い

飛行機雲といったら、あなたは一体どんな想いを馳せるのでしょうか。小さ
い頃お母さんに手を引かれて家に帰る道すがら見上げた夕焼けの空を一直線
に白く染めていく飛行機雲に自分の大いなる夢を予感したことでしょうか。
それとも失恋した心を自分から隠すために川の堤を一人で歩きつづけて、ふ
と見上げた空に自分を追い抜いていく飛行機雲を見つけ「バカヤロー」と叫
んだことでしょうか。予告もなく現れる飛行機雲は普段空虚な存在なのに、
心の襞に滲み出た悲喜こもごもの情感と重なるとくっきりとした実像になっ
てわれわれを惹きつけるものなのです。

飛行機雲が気まぐれなのはきっと、飛行機の飛んでいる空中の温度がマイナ
ス30度C以下にならないと出来ないからでしょう。そのような条件は寒い
日か、1万メートルもの高空(多分見え難い、あるいは見えない)でないと
いけないから、気まぐれのように映るのです。そこでは飛行機のエンジンか
ら排出されるガスは瞬時に冷やされて雲になります。その雲は飛行機の飛ん
でいく航跡をくっきりと、ちょうど白い線が引かれたように描写します。寒
い冬に息を吐くと白くみえるでしょう。あれと同じことですね。

最近アメリカ航空宇宙局(NASA)では北米での地球温暖化を加速してい
る最大の原因はこの飛行機雲だという研究結果を発表しました。過去20年
に亘って地球の気温上昇に荷担してきたというのです。1975年から
1994年までの20年間、米国上空の雲を観測してきた結果、飛行機雲が
時間とともに上空に広がって出来る巻雲という雲の量が増えたことを突き止
めました。この巻雲には地表を暖める太陽の光を通す一方で地表から熱が逃
げるのを遮る性質があります。つまり「温室効果」を促進するわけです。N
ASAではその前提に基づいて温度上昇を計算したら10年で0.2度から
0.3度と推定され、一方でその間米国での温度上昇が0.3度であったこ
ととつき合わせ、温度上昇の大部分が飛行機雲によるものと結論付けたわけ
です。

でも飛行機雲が地球の温暖化に荷担しているなんて悲しいですね。もしあな
たがユーミンの「飛行機雲」とともに青春を謳歌したのなら、すべてが我慢
のならない難癖にも聞こえるのでしょう。しかしそれが事実だというところ
に、冷酷な文明の語り口の一端が潜んでいるのです。

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