身近に小さな文明論{7/18}号  2004/07/18

身近に小さな文明論・・2004.07.18

静かな町

スイスの、イタリアとの国境に聳えるマッターホルン;4478メートル。
鋭く切り立った端正な姿がピラミッドのように聳えて、太陽光線の具合でそ
の姿を変えていくとか。

そのマッターホルンが山あいに見えると言うだけで有名になった町がツェル
マットです。そのツェルマットに入るには町の入り口で電車か電気自動車に
乗り換えなければなりません。ガソリンを燃やす自動車は一切入ることが出
来ないのです。そこで隣の町から電車に10分乗って訪れたのですが、ツェ
ルマットの町が何か異様な雰囲気を湛えていることに気づきました。まるで
廃墟のように静かな町だったのです。でも決して人がいないわけではありま
せん。さすがに観光の町だけあり、町中が日本人観光客で溢れていました。
それでも静かななのは音もなく忍び寄る自動車のせいでした。無声映画のよ
うに電気自動車が行き交っていたのでした。

そして洗濯物の代わりに窓辺に溢れる花,花,花・・スイスは水力発電が盛
んな国です。氷河を湛えたアルプスから流れ出る豊富な水が何もかものエネ
ルギー源である電力を産み出しているのでしょう。一年中冷房の要らない国
であっても反対に寒さは厳しく、暖はその電力を利用したセントラル・ヒー
ティングになっているそうです。もちろん地下室には乾燥室があり、洗濯物
はそこで乾かしていたのです。炊事にも一切ガスなど使われません。電磁調
理器に依存しております。それでは安全で、火事などないのも頷けます。町
中が異様に静かだったのはエアコンのきしんだ音さえない、セントラル・ヒ
ーティングのせいでもあったのでしょう。

ホテルにチェックインすると石鹸がありませんでした。シャンプーもボディ
用も同じ液体洗剤でした。「明日は町で石鹸を買ってこなくては」などと言
おうものなら直ちに「この町に石鹸はありません」ですって。これではまる
でマッターホルンと同居するため、それを支える地球に優しくしなければと
徹底的に拘っているようですね。

実はそうだったのです。ご存知のように、スイスは観光の国です。それを維
持するためには売り物である景色を造っている牧場も農場も整備を怠るわけ
にはいきません。持ち主は手をかけて美しい景観を維持しているのです。す
ると当然に彼らの作り出す農産品も乳製品も原価高にならざるを得ないわけ
ですが、そこまでを理解した国民だからこそ輸入より遥かに高いそれらを受
けいれているのです。そう言う考え方の国って、他の先進の国々が考えさせ
られる要素を沢山持っていると言っていいのではないでしょうか。

今朝も快晴・・朝日に輝くマッターホルンがエールを送りながらツェルマッ
トの町を見下ろしています。


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