身近に小さな文明論{No04/08/29}号  2004/08/29

身近に小さな文明論・・2004.08.29

真夏の訪問者

真夏の訪問者はふと郷愁を誘うものです。今回は猛暑の昼前に、閉め忘れた
網戸から侵入してきた小さな訪問者を紹介します。

それはタマムシ・・正確には日本が世界に誇る、あの玉虫色に輝くヤマトタ
マムシです。昆虫採集に夢中になっていた子供の頃、本当に極く稀に捕まえ
て以来、長い間お目にかかっていなかったタマムシくんが突然我が家を訪問
してくれたのです。緑、青、黄、黒、それに・・何色と言うのか、色と言う
色を全部溜め込んだような玉虫色って実に見事ですね。

派手といえば派手なのかもしれません。でも長い進化の歴史を生き抜いてき
た以上、玉虫色にもちゃんとした理由があるのでしょう。早速インターネッ
トで調べてみました。するとありました・・太陽が真上にきた頃合いを見計
らって飛び回る玉虫は下からも上からも光に埋もれて見え難いのだそうです。
いわゆる保護色と言ったところですね。特に武器を持たない、飛び方さえも
ぶきっちょなタマムシは保護色になって飛び回っては繁殖相手を見つけてい
たのです。暑い夏の日中に高い空を飛びまわるタマムシ。だから昆虫採集名
人だった少年でさえもそうやたらに捕らえることなど出来なかったのですね。
成虫になってから何も食べることなくただひたすら交尾の相手を見つけて飛
び回り、短い成虫としての生命を終えるのだそうです。

成長して大人になるに連れ、そのタマムシを見る機会など(恐らく興味も失
せたのでしょうが)なくなりますが、一方でその象徴であるあの美しい色だ
けは人の意識の中で一人歩きを続けるようです。だからこそ古人も法隆寺で
有名な「玉虫厨子」の美しい衣装として使い、ブローチや帯留めなどの工芸
品に広げ、最近では塗装法に取り入れられてバスの車体を飾ったりしている
のでしょう。さらに「玉虫色」などと言う言葉もありますね。その場合はあ
の美しいイメージとは違って見る角度によって色々な色に見えることから
「どちらともとれる曖昧な発言」の意味で使われています。

真夏の訪問者は暑さを忘れさせてくれました。随分と久方振りにタマムシく
ん本人に出会って「ああ、まだいたのか」と安堵する一方で、死んだタマム
シをタンスの引き出しにそっと仕舞いながら母が「タマムシを入れておくと
衣装持ちになる」と言っていたことまでを思い出しました。こうしてたった
一匹のタマムシの訪問がしばしの時間を子供の頃にまで引き戻してくれたわ
けで、身近な小さい文明も三歩進んで二歩戻る思いを確かにしました。

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