「くまちゃん」 一緒にリビングでテレビを見ていたくまさんがキッチンの方を振り向いた。 「なあに?」 くまさんは立ち上がりぽてぽて歩いてく。我が家ではくまさんは公認なのだ。ある日突然動いて話したというのに母も父も全くと言うほど気にしなかった。 むしろ母なんて狂喜乱舞して喜びあたしより可愛がっている。 「悪いんだけどね、廊下の扉の中に新しいラップ入ってるから取ってきて欲しいの」 「はあい」 くまさんはまたぽてぽて歩いて廊下へ向かう。しばらくしてまたキッチンへ入った。 「はあ、ラップだよ。いいなあハンバーグ。ぼくも食べれたら良かったのに」 母にそう言うくまさん。彼には口がない。正確に言うならば口はあるけど開かないのだ。なんたってそれは刺繍されたばってんなのだから。 だから今でもくまさんがどうやって話しているのかあたしにはわからない。 まあ、どうして動き出したのかも分からないんだけどね。 つづく |