過去メルマガ掲載 ** 「何度でも繰り返す」2/2 「声が大きいよ」 「マジ、朝起きてあんたしかいなかったのは驚いたけど」 「え?」 工藤は思わず、美形の男の顔を凝視してしまった。 美形の男――八代(やしろ)とすでに泥酔していた工藤は、あるゲイバーで意気投合して、さらに深酒に精を出していた。二人はバーテンダーをしている青年に猛烈な誘いをし続けて、閉店後、青年を二人で八代のマンションに持ち帰った。 まぁ、そこで繰り広げられた隠微な世界は割愛するとして、深酒をしても意識のあった八代が面倒見よくコンドームをつけさせ、いわゆる三つ巴で青年をかわいがったというわけだった。 「あ、そう……」 工藤は頭を抱えた。だったら、今まで目の前の美形に胸をときめかせていた自分は何だったのか……。 二人で行ったゲイバーがどこにあるのか、結局二人とも思い出せず、工藤は八代とメールアドレスだけ交換して別れた。 「ま、もう、二度と会わないよな……」 そんな思いがあったから、メールアドレスの存在自体忘れてしまった。 あれから半年。 工藤はまたも見知らぬマンションで目覚めた。言葉にならないうめき声を発して、工藤は頭を抱える。 またしでかした……。今度は誰だ? しかも最悪なのは、今回は腰に違和感があるということだ。 ベッドの中には工藤しかいない。相方になった男はどこかに行っているようだ。ならば、あとくされなく消えたほうがいい。むしろそうしたい。 工藤は床にばらまかれた衣服を身につけて、そっとドアを開けて部屋を出た。玄関を探し、靴を履いていると、背後から声をかけられた。 「あれ? 工藤さん、帰っちゃうの?」 どこかで聞いた、懐かしい声。 工藤は恐る恐る振り向いた。 風呂上がりの濡れた体にタオルを掛けただけの美形の男、八代がにやにや笑って立っていた。 「あ、まぁ、帰ろうかな、と……」 言葉に詰まって、立ち尽くす工藤の腕を取り、八代が言った。 「また二人きりで会おうね。俺、工藤さん気に入ったから」 腕に絡まる八代の指が、工藤の情欲を刺激して、腰が痛いにもかかわらず、部屋を出ていく気が失せ始める。 八代とどこで再会し、どこからこんな展開になったのか、さっぱり思い出せない。 工藤はもう二度と酒は飲まないと、心に誓った。 完 |