「なしくずし」 いくつか足の高い丸テーブルといすが点在し、ライブハウスのような雰囲気を醸している。実際それを兼ねているのだろう。 「ねぇ、いいっしょ? こういう店、工藤さん好きでしょ?」 いつの間に工藤の好みを探り当てたのか、それとも自分でしゃべったのか……。工藤には図りかねた。 「うん、そうだね……」 それでも、アカペラに近い歌手の歌声が、工藤の琴線に触れて、妙に心地いい。運ばれてきたバーボンがダブルであることも忘れて、水のように喉に流し込んだ。カーッと胃の腑を焼くアルコールが、少しずつ体をめぐり、あっという間に工藤の頬を上気させていく。 「やっぱ、酔った工藤さん、色っぽい」 テーブルの上に置いた手に八代が指を這わせてくる。 「酔わせないとさぁ、工藤さんやらせてくんねぇから……」 そう言って上目遣いにそそいでくる八代の視線が妙に熱い。 「いつになったら、工藤さん素面で俺と寝てくれんの?」 「素面で? そんな……、だいたい八代さん、なんでぼくの相手すんの?」 「気に入ったから? それ以外になんかあんの? 二本挿しした仲とはいえさ、工藤さん、感度いいし。俺的にはもっと慣れてもらってからがいいの」 「何に慣れるの?」 「されるの、気持ちよくなってきたみたいよ? どんどん乱れていくとこ、俺大好き」 酒が体の血液と入れ替わっていくのがわかる。まずいまずいと頭では分かっているのに、八代の卑猥な言葉に工藤は挑発されていく。 「乱れてなんかない……。だいたい、やられて気持ちよくなんかない」 「またまたぁ、工藤さん、すぐ我慢できなくなるくせに。俺にしがみついて、いっつも何度もいく癖に」 八代がにやにや笑いながら、指先で工藤の手の甲をくすぐってくる。 工藤は下半身に血が集まってくるのを感じながら、居心地悪いふりをして身じろぎした。 酒で思考がぼんやりしてくるのに反して、欲望の塊が体の中心を衝き上げてくる。 まるでそれを見計らったかのように、八代が体を寄せて工藤の耳元に唇を寄せる。 「ねぇ、欲しくなってきたんじゃねぇの? ぐちゃぐちゃにされたくなってきたんじゃねぇの?」 工藤の頭が真っ白になっていく。 ああ、もういいや。流されてしまえ。 完 |