「絡みとられ流されて」 『やっほー。工藤さん、今晩飲みましょ』 絵文字を使った軽いノリのメールが、工藤の終業と合わせて携帯に着信した。 『仕事です。無理です』 工藤は初めてあらがってみた。今日はおとなしく家で飲もう。外にいたらきっと八代につかまる気がした。強引でしつこい八代の誘いを断る自信がない。 工藤は急いで帰り支度をした。 帰り際、家飲み用の焼酎とつまみを買い、アパートに戻った。暗くて寒い我が家。石油ファンヒーターをつけ、三十分してやっと部屋が暖まった。先に風呂を済ませ、こたつに酒とつまみを並べるとテレビをつける。 なんとなく落ちつき、ぬくぬくとこたつに寝そべって、どうでもいい番組に愛そう笑いしながら、コップの酒をのどに流し込んだ。程なく酔いがまわり、心地よくなってくる。 そうすると、体も疼き始め、自然に勃起してきた。八代の顔が浮かぶ。そっと片手を股間に伸ばし、八代が触れるように触ってみた。とろけるような快感が背筋を這いあがる。 しばらくそうしていると、いきなり携帯が鳴った。 『今どこ?』 八代からだった。 『あんたの知らない飲み屋』 頭のどこかで、八代に会ってセックスしたいという思いがわいてくるが、工藤は無視して、八代にメールを返信した。 酔いがさめそうで、怖くなって工藤はコップに残った焼酎を一気飲みした。再び、夢うつつに下半身をいじくる。もう少しで達しそうになった時、また電話が鳴った。無視しようとしたが、メールではなく、電話だった。知らない番号だった。誰かと思い、出てみる。 「工藤さん、俺のこと避けてるっしょ?」 八代だった。あわてて工藤は言い訳した。 「そ、そんなわけないじゃない。避けてないよ」 「じゃあさ、なんで家にいるの?」 「い、家!? え? 違うよ」 あわててテレビを消す。 「テレビつけてるしさー、アパートの電気付いてるし……。声も聞こえてんだよね」 「な!?」 ドアのインターホンが鳴った。電話越しにも同じ音が聞こえる。 「なんで、家知ってんの!?」 工藤は叫んだ。 「秘密。さ、開けてくれよ。工藤さんとエロいことしたいんだから」 工藤は体を起こして、玄関を見つめた。 このドアを開けるべきか……、開けないべきか……。心で警鐘が鳴っているのに、工藤の肉体はじんわりと火照ってくる。 工藤は誘惑に弱い自分に歯噛みしながら、ドアを開けに立ちあがった。八代とはもう切り離せない自分の体を呪いながら……。 完 |