「俺たちは巡り合う運命だったんだよ」 悟一と名乗った男は確かにそう言った。 泉は恐怖で口がきけなかったが、全身全霊を込めて否定していた。何も見えない恐怖から、手錠をはめられた足をやみくもに引っ張り、この場から逃げ出そうと必死だった。 鉄柵に金属が激しくぶつかり合う音が、部屋中に響く。足首が引きちぎれそうなほど痛んだが、次の習慣に何が起こるかわからない泉にとって、その痛みは何ら問題ではなかった。 暴れる泉に悟一が覆いかぶさってきて、手足を押さえられた。ふいに口元をふさがれ、異臭をかがされた。また、意識が混濁し、朦朧としてきた。 「な、なにを……?」 「これ以上怪我させたくない。落ち着いたらまた話そう」 悟一の最後の言葉が意識の中に滑り込む前に、何もかも聞こえなくなった。 泉は公園に立っていた。冬景色の公園には雪が積もり、誰もいない。すごく寒かった。遠くに小さな黒い点が見える。 不思議だ。視力を失っているはずなのに、今はこうして何でも見えている。小さな黒い点のことを泉はなぜかシュバイツだとわかった。 「シュバイツ!」 泉は反射的に追いかけた。それなのに、シュバイツは逃げていく。いや、一向に距離を詰められない。ひたすら追いかけるが、次第に足がもつれて、まるで泥の中を進むように手足が重たく感じられた。 「シュバイツ!」 置いていかないで! 僕を一人にしないでと叫びながら、泉は目の前が真っ暗なことに気がついた。目元が熱い。鼻がぐずる。どうも泣いてしまったようだ。涙をぬぐおうと手を上げようとしたが、両腕が言うことを利かない。 仰天してもがいたが、何かで全身を固定されているのだとやっと悟った。しかもとても肌寒い。 夢の中で冬だと思ったのはこのせいだろうか。いったい何が起こっているのか。 「気がついたか?」 あの声がした。すぐそばでした。泉は身を固くし、息をひそめた。 「暴れたから……。かわいそうだけど、拘束具を付けたんだ……。でもね、飯も下の世話も俺はできるよ、だから安心していい」 安心? できるはずがない。 「ここ、どこ?」 泉はやっとの思いで訊ねた。 「山の中。だから逃げられない。まぁ、あんたは目が見えないからまず無理だと思うけどね」 山の中……。泉は悟一の言葉から何かヒントはつかめないかと考えた。 「車で来たの?」 「いや、あんたを背負ってここまで歩いたよ。大変だった。あんたは細いのに案外重たくて」 「……じゃあ、僕のいたところからそんなに離れてないんだ」 すると、悟一がおかしそうに笑う。 「なんで、そんなふうに思うんだ? 背負ってきたのは麓からで、あんたのいた町からはかなり離れた山だよ。逃げようと考えてるんだとしたら無駄だと思うよ」 空気が動き、悟一が立ちあがったとわかった。すべて空気の動きと音で判断するしかない。しかし、どうしても聞いておかないといけないことがあった。 「あ、あの」 続 |