「なに?」 「犬は? シュバイツはどうしたの」 「ああ、あの犬かぁ……。おとなしい子だよね。あんたを連れていこうとしても絶対吠えないんだよ。ただしつこくついてきて困ったけど、何もしてないよ」 それを聞き、泉は心から安堵した。 「でもね、車に回り込むから、もしかすると、引っかけたかもしれないな……。鳴き声がしたし」 その瞬間、泉は全身から血の気が引いた。目が見えない暗闇とは違う、一瞬にして脳味噌がしびれるような闇に放り込まれたように感じた。ショックで何も言えなくなり、泉は口をわなわなと震わせた。悟一に殴りかかりたいのに、それができない。シュバイツにした仕打ちを報いてやりたいのにできない。 「大事な犬だったのか? それは悪かったけど、車体の下に入られたら、よけきれなかったんだ」 悟一が悪びれたふうもなくいった。 シュバイツを失った思いで泉は頭が真っ白になった。何も考えられず、振り絞るように叫んだ。叫びながら、悟一が「落ち着いたらまた来るよ」と言って部屋を出て行ったように感じた。 いったいどのくらいの時間がたったか分からない。分かっているのはシュバイツが死んだこと、狂人に囚われた自分がいること。 泣き叫び疲れ、そのまま意識を失い、気づくと寒さのためにひどい尿意を催していた。 このまま我慢することができず、トイレに連れて行ってもらいたいと思い、泉は悟一を呼んだ。 ドアの開く音がして、悟一が入って来る。 「どうした?」 「ベ、便所……。トイレ行かせてよ」 「だめだよ」 さらりと拒否され、泉はうろたえる。 「漏れるから……、行かせてよ」 しばらく悟一は黙っていた。が、おもむろに泉の下半身に触れてきて、ズボンを引き下げた。 「な、ちょ、やめてよ!」 泉は驚いて叫んだ。まさかこのまま用を足せというのだろうか。 「今適当な瓶がないんだ。俺が咥えてやるから、しょんべんしてしまえよ」 「え!? いやだ! やめてよ!」 ふいに性器が生温かなものに包みこまれた。しかも、悟一はわざと泉の膀胱を押さえつけてくる。 「やめて! 放してよ! いやだ!」 必死で叫ぶが全く聞きいれてもらえない。何度も強く膀胱を押されて必死で我慢していたが、叫ぶと同時に弾みで出てしまった。もうそのあとは止めたくても止めることができなかった。 「いやだぁ!!」 泉は叫びながら抵抗したが、拘束された下半身を動かすことはできなかった。泉の尿を飲み干す音が聞こえてくる。おぞましさに叫ぶことしか思いつかなかった。 「いやだいやだいやだいやだ……」 泉が経文のように拒否の言葉をつぶやいていると、悟一が耳元に口を近づけて囁いた。 「あんたは俺の運命の人だから……、俺は何だってできるんだよ」 その吐息からアンモニアの臭気を感じ、泉は自分が奈落に突き落とされたように思えた。 完 |