テスト配信です ・・・・・ 彼は逃げなかった。 体は強張り、見開いた目はずっと驚いたままだ。 しかし、その瞳に恐怖の色は見えなかった。 だから、多分大丈夫だ。 「いきなりすいません。驚かないでください。俺を覚えていますか?」 驚くなって方が無理だよな。 急に大声で謝られたんだから。 咄嗟に「ごめんなさい」しか出て来なかったんだから仕方ない。 彼は小さく頷いた。 オイルが切れたみたいに、ぎくしゃくした首の動きだったけれど。 「これ、あなたのですよね?返そうと思って」 鞄から、水色の手紙を取り出した。 皺にならないよう、ファイルに挟んでいたけれど、端が少し折れ曲がっている。 「ごめんなさい。すぐに返そうと思ってたのに、今日になってしまって。ちょっと折り目が付いちゃいました」 拾ったそのままの状態で返したい。 そう思っていたのに、失敗だった。 手紙を見た途端、彼は手の平で口を覆い、小さく「あっ」と言ったようだった。 初めて声を発してくれたのに、木々の葉を渡る風の音に消され、よく聞こえなかった。 彼の瞳が揺れて、今にも泣きそうになる。 やっぱり大切なものだったのだ。 絶対返さなくては。 逃げられても困るが、泣かれても困る。 時が止まったかのような公園に、ただ風だけが動いていた。 . |