身近に小さな文明論{No8/15/04}号  2004/08/15

身近に小さな文明論・・2004.08.15

深夜の羽衣

カラスウリをご存知ですか?
もしその花まで知っているのなら、今回の表題である「深夜の羽衣」の意味
にぴんと響くものがあったでしょう。そうなのです。カラスウリの花が今回
の主役なのです。カラスウリの花は夜に白い五弁の花が天女の羽衣のような
細い絹糸をまとって咲き、暁光とともに萎んでしまいます。そのあまりの絢
爛さは目を疑うほどで、ぜひ一度は見ておきたいものですが、残念ながら普
通にはなかなか人目につきません。

ところが早朝散歩をしていて、朝になっても萎まないカラスウリの花を見つ
けました。さすがにうっとりさせられるような長い絹糸は纏っていないので
すが、緑の生垣に絡みついた蔓から開いた花は清楚で美しいことに変わりあ
りません。散歩道には他にも色々なところにカラスウリが絡み付いています
が、いずれも朝には花も萎んでしまい人目につくことなどありませんのに。
(HP「タワンティンスーユ」に写真を載せましたので、ぜひご覧下さい)

ところでなぜカラスウリというのかといいますとカラスが好んで食べるから
ではなく、朱色をした卵大の実が晩秋の頃になっても鮮やかなままに人目に
つき「あれはきっとカラスが食べ残したものだ」と誰かが言ったとか言わぬ
とか、という理由で名付けられたのだそうです。最近の運動会は秋到来とと
もに行われるようですが、秋も深まった頃に開催されていた以前にはカラス
ウリも既に真っ赤に熟れていて、運動会にはその果肉を足に塗って走ったも
のです。足が軽くなるという理由だったのですが、それで着番が速くなった
という記憶はありません。

晩秋からやがて冬へ・・かつての人々にとってひびやあかぎれに悩まされる
季節の到来となります。水仕事に明け暮れる主婦などは当然のこと、小学生
でさえも手や顔を真っ赤に腫らして悩まされました。するとカラスウリの出
番になりました。カラスウリはひびやあかぎれの薬として重宝がられ、粘滑
性の果肉を直接肌に刷り込んでは荒れ止めにされたのです。他にもカラスウ
リはその根にも果実にも薬効があり、解熱剤などに用いられました。その上、
ひびやあかぎれなどの皮膚の荒れ止めに用いられたくらいですから、化粧用
にも貴重だったのに違いありません。

ところが時が移ろい、もはやカラスウリなど見向きもされなくなりました。
運動会だからといってカラスウリを捜し求める子供などいなくなりましたし、
ひびやあかぎれなどとは無縁の社会、ましてや解熱剤など薬屋で求めるもの
に決まっています。そこで・・もし雑木林などでカラスウリの萎んだ花を見
つけたら躊躇わずにその夜再度訪れ、深夜の羽衣をご覧になってください。
きっと満足の行く光景に出会うはずです。そして間もなく秋、木枯らしの中
にふとカラスウリの赤い実を見つけてほっと安堵の郷愁を吐き出してくださ
い。

ホームページにもぜひお寄り下さい・・→
陽はまた昇りて   http://kikiwata.hp.infoseek.co.jp
              タワンティンスーユ http://www5b.biglobe.ne.jp/~cir-KIKI

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