北風と太陽/40  2006/02/14

風の脳裏に浮かんでいたのは、必死で森を彷徨う少年の姿だった。
たったひとり、頼るものもなく、生まれる前に離れた祖国へ向かうのはどんなに心細かっただろう。
欲に取り付かれた、腹黒く薄汚い人間どもが、どれだけ少年の運命を翻弄すれば気が済むというのか。
そしてそれを結果的に手助けしてしまった自分は、どれだけ愚かだったことか。
男達には見えなかったが、風の琥珀の瞳は言い様のない苛立ちに燃えていた。
「…くっ…!」
上着を抱えた男が、手放すまいと腕に力を込める。

ブラウザの閉じるボタンで閉じてください。