北風と太陽/44  2006/02/16

と、その時。
森の出口から茂みを掻き分けて、人影が現れた。
「あ…」
赤い瞳が驚いたように風を見つめている。
枝に引っ掛けた衣服は所々破れ、薔薇色の頬も随分汚れてはいたが、それはあの少年だった。
背後の暗がりで、青い鬼火が揺れているのが見えた。森の精の少女が、少年を無事に導いてくれたのだ。
風がゆっくりと近付くと、まるで怯えた子狐のようにびくりと身を硬くする。
「……ほらよ」
「えっ…」
「お前のだろ、これ」
少年は未だ何が起こったのか解らぬ様子で、両目を何度も何度も瞬かせて彼を見上げた。

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