Il Deserto Rosso/8  2007/01/23

(……翼があればいいのに)
微かに呟いた声を、召使いは聞き逃さなかった。
何か少年の心を慰めるものはないだろうか―――
彼は櫛を使う手をふと止めると、思い出したように言った。
「そうだ、王子さま!……今夜、王宮に歌い手が来るのをご存知でした?」
「歌い手?」
「はい。ここ何日か前に異国からやってきた、旅人でございます。まだ若い青年で、それは美しい竪琴を奏でるのだとか」
召使いの話では、歌い手はついこの間、城下の町を訪れたばかりだという。

ブラウザの閉じるボタンで閉じてください。