Il Deserto Rosso/22  2007/01/30

弦の音が小さく響いたかと思うと、影が信じられない身軽さで枝へ飛び乗るのが見えた。
あっと言う間に窓辺へ渡り、その姿が篝火のもとへあらわになる。
「ふぅん。……もしかして、かの有名な囚われの王子さまってのはあんたの事か?」
「……!!」
―――琥珀の瞳に顔を覗き込まれて、王子は息が止まりそうだった。
「それで、王さまはここへ近づくなと仰せになったわけだ」
「!……だったら、なぜ」
心臓が口から飛び出しそうに脈打っている。
青年の纏う空気は、水と太陽と砂の匂いがした。

ブラウザの閉じるボタンで閉じてください。