Il Deserto Rosso/27  2007/02/03

それも、もう遠い昔のことで。
「なぁ王子様、歌は好きかい?」
「歌?」
うっすらと涙の滲んでしまった目を擦りながら、王子は頭ひとつ分上にある青年の顔を見上げた。
「そう。お詫びに一曲ご披露しますよ、っと」
言うなり、銀の竪琴をさらりと鳴らす。
優しい月の光にも似た戦慄が、包み込むように広がってゆく。
青年の歌には何もかもが織り込んであった。果ての無い青空を流れる雲、小川のせせらぎに遊ぶ小さな魚や、太陽を浴びて咲く鮮やかな花たち。
目を閉じればありありと、全ての情景が浮かんでくる。

ブラウザの閉じるボタンで閉じてください。