Il Deserto Rosso/28  2007/02/03

王子が未だ見たこともないはずの、異国の町並みさえも。
「……君は、それを全部見てきたんだね」
歌が終わり、未だ夢うつつの中、王子はほうと溜息をついて呟いた。
「気に入ったか?」
青年は誇らしげに笑い、うなずいた。
「うん。……とても。―――ありがとう……えっと」
そこで初めて、王子は相手の名前も知らない事に気付いた。
「ジェット」
琥珀色の瞳を片方瞑ってみせてから、彼は言った。
「ジェット。僕も"王子様"じゃなくて、ジョー、だよ」
二人は顔を見合わせて小さく笑った。

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