Il Deserto Rosso/30  2007/02/05

「そりゃ、好きずきだな。でも、大人なら大抵、子供に聞かせる昔話の10や20は知ってるぜ」
青年は笑って、もう一度竪琴を柔らかに鳴らした。
「話そうか?」
「うん!」
「じゃあ」
彼はふと脚を伸ばすと、じっとまっすぐに王子の瞳を見つめた。
「それはまた、今度な」
「……今度?」
王子はその、悲しい言葉をゆっくりと飲み下すように、繰り返した。
「そう、今度」
「どうして?今じゃいけない?……だって君は……」
いつまでもこの王宮にいられる身ではないと、王子にもそれは解る。

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