蒼い彗星 裏 no.7 / 13/06/12  2013/06/12

「いまはこのままで」

いつもの店で待ち合わせ、飯を食った後ホテルでことを終え、ベッドに寝そべったまま、紘輝(ひろき)は傍らでタバコを吸う雉本(きじもと)を見た。
雉本のセックスは淡白だ。お互い咥え合って、最後に雉本が紘輝の中に放つ。二度目はあっても三度目はなかった。
別に雉本に不満はない。ただ退屈なセックスだと思う。それでも雉本に会ってこうして体を重ねてしまうのは、彼に安心感を感じているからだろうか。
しかし、彼と暮らしたいと思わない。上体を起こした雉本の肩から背中を覆い尽くす刺青を見た。彼の職業を考えると、一緒にいて安堵を感じないだろう。結局紘輝は小心者なのだ。適当に遊べればいい。それだけだった。
雉本もそれを理解しているのか、こうしてたまに呼び出すくらいで、頻繁に会おうなどと言わない。雉本の金で飯を食って、ホテルでセックスするのが二人の関係だった。
雉本と初めて出会ったのはゲイバーで、紘輝はそこのウェイターをしていた。ホステス役の青年たちとは違い、店の隅にたたずみ、出来上がったフルーツやスナックを運ぶだけの仕事。客と直接話すことはないはずだった。
雉本は客として店に遊びに来た折、紘輝に目を付け、声をかけてきた。
「あんた、顔いいんだから、客の相手しろよ」
雉本の気安いしゃべりに紘輝は無言でうなずくしかなかった。そんなことできるものか、というのが本音だった。ホステスたちの視線が鋭く突き刺さる。
「すみません……。僕、人と話したくないんで……」
紘輝はわざとぶっきらぼうに答えた。嫌われたほうがいい場合もある。雉本はふーんと言ったきり、またホステスに向き直り、紘輝のことは忘れたように思えた。
だから、閉店後、店じまいを終えた紘輝が外に出た時、そこに雉本がいたのは驚いた。タバコの吸い殻が数えきれないほど雉本の足元に積っている。
「外でなら、話できるか?」
雉本のこういうところが、なぜか気に入ってしまった。二度目に会ったとき、誘われるままにホテルに行った。別に初めてじゃない。されるのは好きだ。死ぬほど気持ちいい。ただ、お小遣いを渡されるのだけは断った。
「売りじゃないから」
紘輝は確かに学費のためにゲイバーで働いているが、売春はしていない。囲われるつもりもなかった。
「そうか」
雉本もあっさり引き下がると、それ以来、会った時の金はすべて雉本が払ってくれるようになった。



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