蒼い彗星 裏 no.8 / 13/06/12  2013/06/12

「いまはこのままで」

雉本と会っていないときは、紘輝はほかの男と遊んだ。
紘輝はきれいな顔をしているらしく、店で声をかけてくる客は少なくない。ただ、紘輝のつれない態度にめげてしまうことが多いだけだ。紘輝と付き合っているのはそういう態度にもへこたれないだけの図太さを持っているか、全く無神経な男だけだった。
ゲイバーで働くうちに紘輝は使いこまれた黒檀のように輝きと隠微さを増していくようだった。その色香にふらりとまいってしまう男は少なくなかった。店長もウェイターでなくホステスとして働くように言ってきたが、紘輝は断った。しつこく食い下がられて仕方なくカウンターに入り、バーテンダーの仕事をするようになった。
自然に声をかけられる頻度も高くなっていく。一度、しつこさに負けて二人の男を相手にしたことはあったが、あれはあれで面白い体験だったと思っている。きれいな男と酔っているが絶倫な男の相手はどこか楽しいものがあった。
声をかけてくれた中に、二度以上会うようになった男、飯島がいた。彼は強引な男だ。誘いを断ったら、携帯電話の番号を書いたコースターを胸ポケットにねじ込まれた。今はその気にならなくてもきっと会いたくなる。飯島は自信たっぷりに言った。
野性味のある男で、雉本と違い堅気の仕事をしている。サラリーマンで営業職。名刺を見ながら、紘輝は、仕事の相手にもこんな態度で臨んでいるのだろうかと考えた。自分が客だったら嫌だと思いながら、飯島の強引な誘いについ引きずられてしまい、仕事が休みの日に会うようになっていった。
セックスはむさぼるようにしつこく、場所を選ばない。公園だろうが車の中だろうが、飯島が催すとことに及んだ。会うと何度でも求めてくることに気づいてからは、紘輝は飯島と会う日は念入りに準備をしてから会うようになった。不意打ちされてなく思いをするのは、何度も犯される自分だったから。
しかし、それは刺激的だった。いつどこで突然飯島が紘輝を抱くかわからない。それは人通りの多い路地だったり、公園の木陰だったりする。
飯島はズボンを下ろし、紘輝に奉仕することを望み、紘輝も飯島の嗜虐的な扱いに興奮を覚えた。唾液と精液だけで潤滑を与えられたそこに、萎えることを知らない飯島の欲望がつきたてられ、かき混ぜてくる。行為そのものが飯島の性格を表していて、一方的でけだもののような熱い飛沫を紘輝の中にたたきつけてくる。
紘輝の脳が快感にとろけてしまうまで、何度でも穿たれ、衝かれ、ドロドロにされた。
飯島と別れるまでに紘輝は自分の足で立っていることができなくなるほどだった。
そんな紘輝に飯島は一緒に住もうと言ってくるが、紘輝は飯島に対して肉欲は覚えても愛はなかった。猛る肉欲に翻弄されたいと思っても、それは安寧ではないし、毎日味わいたいものでもない。濃い味付けはたまに味わうだけでいい。それは日常や平凡な日々のエッセンスでしかない。
「ごめんね。僕、縛られるのは嫌なんだ」
紘輝は嫣然と微笑んで、飯島の股間をなでつけた。

一緒にいたい人、たまに会うだけでいい人、なぜそれらが一緒になっている人がいないのか。条件を満たした男がどこにもいないことが、紘輝を悩ませる。
だから今はこのままでいい。いつかきっと自分の満足できる相手が見つかるはず……。



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