蒼い彗星 裏 no.11 / 13/06/28  2013/06/28

「絡みとられ流されて」

今朝も工藤は八代の寝室の天井をぼんやり眺めながら、眠りから覚めた。最近慣れてきたせいか、腰の違和感はない。けだるい虚脱感があるくらいだった。
八代の目覚めは早くて、すでに隣にはいなかった。そもそも一緒に寝ていることすら不明だ。
ここのところ、酒が入っても記憶が残っていることが多い、記憶が飛ぶのは行為に入り少ししてからだった。まるで自分ではないかのように、酔った工藤は八代にむしゃぶりついて激しく求めた。
そういった光景が他人事のように思い出される。
恥ずかしい。認めたくない。
工藤は上体を起こし、頭を抱えてため息をついた。
八代が自分に何を求めさせているか、覚えていたくなかった。ましてや思い出したくもない。
恥ずかしさに頭が真っ白になり、混沌とした闇に沈んでいくように感じた。
八代の言葉や仕草や仕打ちを、喘ぎながら求め悦んでいる自分が悪夢のようだった。まるで狂った淫乱な犬だった。あそこまで身悶える男を工藤は見たことがない。少なくとも工藤は素面のときに抱いたことがなかった。
頭で恥ずかしいと思っているのに、体は熱くなり萎えたあれが少し上向きになる。明らかに作り替えられた自分の体に、工藤は今さらだが愕然とした。頭を冷やすために円周率を唱える。それなのに十四ケタも行かないうちに詰まってしまった。数学が得意じゃないせいで、素数すら浮かばない。まぬけだが、単純に羊を数えて、気を紛らわす。
そうこうしていると、寝室の扉が開いた。
「起きた? 腹減ってない? 下のコンビニで飯買ってきたんだけど」
マンションの一階にあるコンビニから買ってきたらしい袋を掲げて、八代が言った。
八代は男から見ても唾をのむほどきれいな顔をしている。背も低くない。モデルか何かしてるんじゃないかと思うほどだ。
しかし、知り合ってから三カ月がたとうとしているが、工藤は八代の職業を知らない。サラリーマンではないのだろう。せせこましい感じがしない。毎晩ふらふらと飲み歩いている工藤とは違い、八代の飲み方や遊び方はスマートだ。案内される店はクラブが多く、ホストも付いてくる。工藤はせいぜいそこらへんのゲイバーで飲むのがオチだ。
身なりもきちんとしており、身につけているアクセサリーも高価なものが多い。工藤は自分では奮発したミリタリー系の時計を後生大事にしているくらいだ。
部屋も整然としており、組み立て家具のようなものはない。おそらく高いだろうと感じさせるものばかりだ。モダンなものでなく、シックでエレガントなものが多いのは、八代の好みなのだろうか。
どっかの社長令息か、または自分が社長か何かなのだろう。そんなふうに感じた。
その割には朝飯はコンビニ飯だが。

朝飯をごちそうになってマンションを出ると、眩しい朝日に目がくらんだ。いつもより酔いが浅いのを感じる。だから記憶が半分残っているのだ。ということは、八代との関係をまるで望んでいるようにも思え、工藤はあわてて首を振った。
そんなわけがない。そうだ。まるでメス犬のように尻を高く掲げて催促するような、そんなことを自分がするはずがない。しかも酒で完全に酔ってもいないのに、自分が何をしているか半分分かっているのに、体を突き動かす情欲に自ら身を任せて、淫らに体をうごめかす。認めたくない。それは自分ではない誰かだった。



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