蒼い彗星 裏 no.12 / 13/06/28  2013/06/28

「絡みとられ流されて」

『やっほー。工藤さん、今晩飲みましょ』
絵文字を使った軽いノリのメールが、工藤の終業と合わせて携帯に着信した。
『仕事です。無理です』
工藤は初めてあらがってみた。今日はおとなしく家で飲もう。外にいたらきっと八代につかまる気がした。強引でしつこい八代の誘いを断る自信がない。
工藤は急いで帰り支度をした。

帰り際、家飲み用の焼酎とつまみを買い、アパートに戻った。暗くて寒い我が家。石油ファンヒーターをつけ、三十分してやっと部屋が暖まった。先に風呂を済ませ、こたつに酒とつまみを並べるとテレビをつける。
なんとなく落ちつき、ぬくぬくとこたつに寝そべって、どうでもいい番組に愛そう笑いしながら、コップの酒をのどに流し込んだ。程なく酔いがまわり、心地よくなってくる。
そうすると、体も疼き始め、自然に勃起してきた。八代の顔が浮かぶ。そっと片手を股間に伸ばし、八代が触れるように触ってみた。とろけるような快感が背筋を這いあがる。
しばらくそうしていると、いきなり携帯が鳴った。
『今どこ?』
八代からだった。
『あんたの知らない飲み屋』
頭のどこかで、八代に会ってセックスしたいという思いがわいてくるが、工藤は無視して、八代にメールを返信した。
酔いがさめそうで、怖くなって工藤はコップに残った焼酎を一気飲みした。再び、夢うつつに下半身をいじくる。もう少しで達しそうになった時、また電話が鳴った。無視しようとしたが、メールではなく、電話だった。知らない番号だった。誰かと思い、出てみる。
「工藤さん、俺のこと避けてるっしょ?」
八代だった。あわてて工藤は言い訳した。
「そ、そんなわけないじゃない。避けてないよ」
「じゃあさ、なんで家にいるの?」
「い、家!? え? 違うよ」
あわててテレビを消す。
「テレビつけてるしさー、アパートの電気付いてるし……。声も聞こえてんだよね」
「な!?」
ドアのインターホンが鳴った。電話越しにも同じ音が聞こえる。
「なんで、家知ってんの!?」
工藤は叫んだ。
「秘密。さ、開けてくれよ。工藤さんとエロいことしたいんだから」
工藤は体を起こして、玄関を見つめた。
このドアを開けるべきか……、開けないべきか……。心で警鐘が鳴っているのに、工藤の肉体はじんわりと火照ってくる。
工藤は誘惑に弱い自分に歯噛みしながら、ドアを開けに立ちあがった。八代とはもう切り離せない自分の体を呪いながら……。



ブラウザの閉じるボタンで閉じてください。