蒼い彗星 裏 no.13 / 13/08/11  2013/08/11

「俺たちは巡り合う運命だったんだよ」
悟一と名乗った男は確かにそう言った。
泉は恐怖で口がきけなかったが、全身全霊を込めて否定していた。何も見えない恐怖から、手錠をはめられた足をやみくもに引っ張り、この場から逃げ出そうと必死だった。
鉄柵に金属が激しくぶつかり合う音が、部屋中に響く。足首が引きちぎれそうなほど痛んだが、次の習慣に何が起こるかわからない泉にとって、その痛みは何ら問題ではなかった。
暴れる泉に悟一が覆いかぶさってきて、手足を押さえられた。ふいに口元をふさがれ、異臭をかがされた。また、意識が混濁し、朦朧としてきた。
「な、なにを……?」
「これ以上怪我させたくない。落ち着いたらまた話そう」
悟一の最後の言葉が意識の中に滑り込む前に、何もかも聞こえなくなった。

泉は公園に立っていた。冬景色の公園には雪が積もり、誰もいない。すごく寒かった。遠くに小さな黒い点が見える。
不思議だ。視力を失っているはずなのに、今はこうして何でも見えている。小さな黒い点のことを泉はなぜかシュバイツだとわかった。
「シュバイツ!」
泉は反射的に追いかけた。それなのに、シュバイツは逃げていく。いや、一向に距離を詰められない。ひたすら追いかけるが、次第に足がもつれて、まるで泥の中を進むように手足が重たく感じられた。
「シュバイツ!」
置いていかないで! 僕を一人にしないでと叫びながら、泉は目の前が真っ暗なことに気がついた。目元が熱い。鼻がぐずる。どうも泣いてしまったようだ。涙をぬぐおうと手を上げようとしたが、両腕が言うことを利かない。
仰天してもがいたが、何かで全身を固定されているのだとやっと悟った。しかもとても肌寒い。
夢の中で冬だと思ったのはこのせいだろうか。いったい何が起こっているのか。
「気がついたか?」
あの声がした。すぐそばでした。泉は身を固くし、息をひそめた。
「暴れたから……。かわいそうだけど、拘束具を付けたんだ……。でもね、飯も下の世話も俺はできるよ、だから安心していい」
安心? できるはずがない。
「ここ、どこ?」
泉はやっとの思いで訊ねた。
「山の中。だから逃げられない。まぁ、あんたは目が見えないからまず無理だと思うけどね」
山の中……。泉は悟一の言葉から何かヒントはつかめないかと考えた。
「車で来たの?」
「いや、あんたを背負ってここまで歩いたよ。大変だった。あんたは細いのに案外重たくて」
「……じゃあ、僕のいたところからそんなに離れてないんだ」
すると、悟一がおかしそうに笑う。
「なんで、そんなふうに思うんだ? 背負ってきたのは麓からで、あんたのいた町からはかなり離れた山だよ。逃げようと考えてるんだとしたら無駄だと思うよ」
空気が動き、悟一が立ちあがったとわかった。すべて空気の動きと音で判断するしかない。しかし、どうしても聞いておかないといけないことがあった。
「あ、あの」




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